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zoom RSS 第4日目 江藤さんの見舞い客論

<<   作成日時 : 2015/01/07 16:27   >>

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ぎっくり腰入院記(4)

「ああ、そこの里見さんですか。さっき、松葉杖ついて出て行きましたよ。きっと、1階の喫茶室でコーヒーでも飲んでますよ。ええ、もう元気で、飛び回っておられますよ」

 ここの502号室は、いいさね。元気な人ばっかりで。
 看護婦の詰め所からいちばん遠いでしょうが。
 だから、手間の掛からない、軽い人間が入っているんさ。出入も激しくって、大抵が2、3週間で退院よ。私が一番長くて3ヶ月半だけど、骨折が接がるのを待っているだけ。気楽なもんさ。
 重病の人がおる病室は暗いさ。ジイさん、バアさんばっかりというのも、馴染めんさ。自分が元気でも、気が滅入ってきてしまうよ。
あのさっきの人、背広をパリッと着込んで、きっと会社の取引先か何かじゃあないかな。こんなに早い時間だからねえ。
 だけど、見舞い客というものは迷惑なもんさね。あっちは義理があるから、「すわ、一大事」ってな調子で、重たい缶詰のお見舞い品でもブラ下げて来るだろうけど、こっちは身体の具合が悪くて、ベッドの上で寝巻キを着て、ウンウン唸っているんさね。ライオンみたいな猛獣が怪我で弱ったら、誰にも見つからないところへ行って治すんさね。人間だって、自分の弱っているところを他人に見られたくないよ。
 またね、折角、浮き世のことをみんな忘れてゆっくり療養しているのに、仕事のことを思い出さされたんじゃあ、たまらんよ。えっ、そうでろう。自分の会社のことをアレコレ考えたって、監獄みたいなところに閉じこめられているんだから、どうなるもんでもあるまいし・・・・・・。それを、かえって仕事を思い出させるように、焦らせて早く退院したがるようにと、面会に来る奴なんてアホさね。
 見舞い客はベッドのトナリ近所にも迷惑なんよ。「ワッハッハッ」と傍若無人に笑ったりして・・・・・・。小声でヒソヒソやられたって、一枚切りのカーテンの向こうで喋られれば邪魔になるもんよ。
 面会人は、話が途切れると気まずい空気が流れて、決まりが悪いものだから、大抵は喋りっぱなしになるんよ。えっ、「病人の退屈を紛らそうとしている」だって。そんな殊勝な奴はおらんよ。
 病人の方は、自分の病状を、来る奴、来る奴に何回も説明させられて、もう厭になっているんさね。それで、割と黙っているよ。だから、見舞いに来た方は、なんせ初めてなもんで、気を利かせたつもりになって、話し続けるんよ。
 中には自分の経験を持ち出して、「俺のときはこうだった」と、捲くし立てる奴もおる。病人の受けている治療を聞いて「そんなんじゃあ、良くならないよ」なんて云われてもねえ・・・・・・。こっちは、大げさに云えば、入っている病院に命を預けているんよ。責任取ってくれれば何言ってもいいんだがねえ。
 ほら、エレベーターの中に『面会者心得』が貼ってあるだろう。「面会時間帯を守って下さい」だの、「面会時間は30分まで」とかね。こんなことは書いてなくても、病院の中なんだから本当は気を配らなくちゃあいけないんさ。書いてあっても解らん奴もおるし、詰まるところは感受性が低いというか、大部分の人間には、病人の迷惑になっているのが解らないんさね。
 じゃあ、どうしたらいいかっていうと、面会に行くよりも、手紙や葉書を出すのが一番。これだったら、病人も好きなときに見られる。具合が悪くて字を読む気がしないってこともあるけど、そんなんなら面会なんかは、なおさらいけんよ。金品をやらなあいけない場合だって、送ってもらった方が病人だって気が楽さね。
 あんたも会社では、そこそこの仕事に着かれているさね。それならもうじき、あなたのところへも見舞い客が押し寄せるさ。あんたの腰痛なんて死ぬような病気じゃあないし、どちらかというと囃し立てたくなる方だから、冷やかし半分に来るよ。そこで来て欲しくなかったら、最初に来た人に、「具合が悪いから、面会には余り来んといてくれ」ぐらいを頼んだ方がいいさね。
 もっとも、あんたは普通にしていれば元気で、シャバから新鮮な空気を持ってきてもらえば、退屈しなくていいだろうけどさ。
 そうそう、お見舞いを持って来られたら、退院したあとが、また大変さね。まあ、取引関係みたいなのは、会社の経費で来てるんだからいいけどね。しかし、同僚とか上司とか、また御近所さんとか、身銭を切って何か持ってきた連中には『快気祝い』っていうのをしなくちゃあいけない。退院して二ヶ月ぐらいたったらやるんさ。
 入院するっていうのは、ホント、面倒なもんさね。

 もっともね、病人の中にもね。解らん奴はおるんさ。夜遅くまで、イヤホン付けずにテレビを見ていたり、部屋の中でタバコを吸ったりねえ。
 ただし、こんなことで腹を立てちゃあいけないよ。それこそ、切りがないんさ。一つを注意したところで、また違うことをやられる。そんな奴はね、他人がいることを忘れちゃうものだから、何だって出来るんさ。
 まあ仕方がないから、それとなく時期を見計らって言ったり、看護婦に頼んで注意してもらったりするんさ。
 でも絶対に、コトは荒立てたらいけんよ。一度やると、病室の中が暗くなっちゃう。みんなが妙にヨソヨソしくなってさ。結局は、言い出した方が気まずい思いをしなければならんさ。
 ほらイビキをかくのがおるさね。ここの連中のなんて大したことはないよ。世の中には、もう地響きと聞き違えるほどのが居るんさ。イビキなんて注意しても治るもんではないから、誰も放っとくわけさ。
 だからね、我慢するんさ。「気にしない」といった方がいいかな。気にした方が損なんさね。何でもイビキと一緒と考える。オレ達も、こんなところに一生、入っているわけではないんだし、ムシズが走る相手だって、その内に出ていってしまうさね。

1992-02-29/2015-01-07

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